近年、高齢化の進展に伴い、紙おむつの生産量・使用量は増加傾向にあり、環境省の推計では、2030年度の使用済み紙おむつ廃棄量は260万トン、一般廃棄物に占める割合は約7%まで高まるとされています。その大半が焼却処分されている紙おむつは、水分量が多く焼却への負荷が大きいため、CO2排出量を増加させる一因となっています。SDGsの観点からもマテリアルリサイクルなども求められる中、アロン化成は使用済み紙おむつのプラスチックリサイクルに成功しました。
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ものづくりセンター
新技術グループ
H.S
01
プロジェクト発足の経緯
懇意にしている企業からの情報を手がかりに
- プロジェクト発足のきっかけを教えてください
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当社の環境インフラシステム事業部が、以前からお付き合いのある鹿島建設さんとの情報交換の場で「ユニ・チャームさんが使用済み紙おむつのリサイクル実証実験を行っており、その過程で排出されるパルプの混ざったプラスチックのリサイクルに苦戦している」という情報を得ました。プラスチック加工を得意とする当社の技術を使って何か協力できないかと、ユニ・チャームさんと協業で取り組んだのがきっかけです。

02
プロジェクトにおける役割
技術担当としてのやりがいと覚悟
- プロジェクトにおける役割と、プロジェクト発足時に感じた思いを教えてください
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私は、当社の有する技術・知見を使ってリサイクル素材の活用方法を検討する技術担当として、本プロジェクトに関わりました。少子高齢化が進む日本では、大人用紙おむつの廃棄量が子ども用の減少分を上回るペースで増え続け、一般廃棄物に占める割合は2015年の約5%から、2030年には約7%になると見込まれています。使用済み紙おむつのリサイクルは大きな社会課題だと感じ、こうした課題に取り組めることにやりがいを覚える一方、いろいろな素材から構成される使用済み紙おむつのリサイクルなど本当に可能なのか?と、半信半疑だったことも事実です。

03
困難だったこと
リサイクルプラスチックに含まれる種類の違うプラスチックと水分に課題を抱えていた
- プロジェクトを進める中で最も大変だったことは何ですか
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紙おむつは、木材からつくられるパルプ、石油資源からつくられる高分子吸収材やプラスチックを主な材料としており、リサイクルするには、洗浄後、細かく砕いて素材別に分けます。リサイクルプラスチックを加工するには、加熱・溶融し、ペレット化する必要がありますが、リサイクルプラスチックは種類の違うプラスチックから構成されており基本的に混ざらず、当初はリサイクルプラスチックが詰まってしまい、ペレット化できませんでした。違う種類のプラスチックを混ぜること自体、とてもハードルが高いのです。かといって、リサイクルプラスチックを種類ごとに分別するには複雑な工程=コスト高となり現実的ではありません。世間一般では「リサイクル品=安い」というイメージがあり、市場に受け入れていただくためにも高価にはできません。
さらに、リサイクルプラスチックは使用済み紙おむつを洗浄する過程で使用した多くの水分を含んでおり、この水分もペレット化の大きな障害でした。

04
工夫とブレイクスルー
他部署の技術者からの一言が突破口に
- 困難をどのように乗り越えましたか
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私が所属している「ものづくりセンター」には、1フロアに3つの事業(環境インフラシステム事業・ライフサポート事業・エコマテリアル事業)の開発チームがあり、その他にも様々な部門の技術者が集約されています。何か困りごとがあれば、各部門の製品開発や技術に長けたプロフェッショナルに相談を持ちかけやすく、組織の壁を超えてシナジーを創出できることが強みです。私は塩ビの素材・成形については自負していますが、リサイクルプラスチックの主成分であるオレフィン樹脂に関しては一般的な知識しか持ち合わせていませんでした。当初、オレフィン樹脂用の押出機でペレット化を試みましたが、リサイクル材は水分が多いため、密閉された押出機の中に蒸気が溜まることで圧力をかけることができず、うまく混練することができませんでした。そこで、社内の技術者に相談したところ、エコマテリアル事業部の技術者が、天然ゴムの代替品であるエラストマーの製造設備が応用できるかもしれないと提案してくれました。エラストマーは天然ゴムと違ってリサイクル可能なものなのですが、近年、エラストマーは自動車や医療などで高機能素材として使用されており、私にはその製造技術を紙おむつのリサイクルに適用するという発想がありませんでした。さっそく、エラストマーの製造設備を応用してトライしたところ、リサイクルプラスチックに含まれる水分を揮発させながら混ざり難い異種プラスチックを混ぜることに成功しました。

05
達成と成果
約1年で製品化に成功!
- プロジェクトが完成した時の気持ちをお聞かせください
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当初は、使用済み紙おむつのリサイクルが可能かどうか半信半疑でやっていたこともあり、思い付きレベルでも次から次に試してみないと行き詰まってしまうのではないかという焦りがありました。
取り組み始めて3か月ほどで、エラストマーの製造設備を応用するという方法で、樹脂加工に適したかたちにできるというところまで行き着きました。プラスチックをペレット化できれば、当社の技術や知見を使って加工の方法はいろいろ思いつきます。リサイクルプラスチックを使って、当社のゴミ収集保管容器「ステーションボックス」に成形し、使用済み紙おむつ専用の回収ボックスとして製品化を実現しました。ユニ・チャームさんとお会いしてちょうど1年が経った頃だったかと思います。担当者の方に「これほど早く製品化できるとは思いませんでした」という言葉とともに多くの感謝の言葉をいただき、大変光栄に思いました。

06
今後の展望
リサイクルが当たり前の社会を目指す
- プロジェクトは今後どのように成長してほしいですか
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使用済み紙おむつのリサイクルはまだ実証実験段階であり、回収や処理のハードルも高く全国的に広がるには課題も多くあります。しかし潜在的にはどの地域でも抱えている課題なので、将来、当たり前にリサイクルする時代が来ると確信しています。社会のリサイクル意識の高まりと並行して、この事業も大きく成長することを期待しています。また、当社環境インフラシステム事業部の製品は業界で協力して使用済み製品を回収するシステムを構築し、実に90%以上をリサイクルしています。使用済み紙おむつは環境や社会に与える影響も大きいので、業界の垣根を越えて、統一した仕組みができることを願っています。

07
あなたにとってアロン化成とは
裁量が多く、やりがいのある会社
- 就職活動中の方へのメッセージをお願いします
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アロン化成は、個人に与えられた裁量が大きく、やりたいと思ったら比較的時間も人もお金も割いてくれる会社だと感じています。せっかく仕事をするのであれば、言われたことをするだけでなく、主体的に社会に貢献し、楽しみながら働ける会社を目指してみてはいかがでしょうか。

