THE SECRET STORY開発者に聞く“ものづくりの、ものがたり”

Vol.1 ポータブルトイレ ジャスピタ

「もう誰にも失敗させたくない」
常識を変えたポータブルトイレ、
“執念”の開発秘話。
青山 智行

Profile
青山 智行
アロン化成株式会社
ライフサポート事業部
ライフサポート開発グループ 主事
福祉住環境コーディネーター2級
マーケティング・ビジネス実務検定B級

「祖父の暮らしを楽にしたい」
入社動機はより良い介護用品を作ること。

食べること、眠ることと同様に、生活を送るうえで重要な要素である排泄。しかし、食事や睡眠と違い、排泄にはプライバシーに関わるデリケートな部分があり、被介護者の抱える悩みはなかなか伝わりにくい。特に、排泄の失敗は、介護者の負担が増えるだけでなく、被介護者の自尊心を傷つけてしまうという側面もある。ポータブルトイレ『ジャスピタ』が、“失敗しないトイレ”をコンセプトとしているのは、そうした背景がある。

ポータブルトイレとは、持ち運びが可能で寝室など室内に設置するトイレのことだ。今では介護施設をはじめ、自宅などで多くの方々に利用されている『ジャスピタ』だが、この製品はある社員の執念なくして誕生しなかったといっても過言ではない。それがライフサポート事業部の青山智行である。

青山が入社したのは2002年。動機は、アロン化成が介護用品を製造していることだった。「まだ私が子どもの頃、大好きだった祖父がパーキンソン病を患っており、苦労しながら生活しているのを見ていました。時々私も祖父を介助しながら、いつかこの日々の苦労を解決してあげたいと思ったんです」と青山は言う。

入社後、滋賀工場で新製品の生産立ち上げ業務などを経て、2008年より介護用品を扱うライフサポート事業部に青山は配属となった。

利用者の“声”に真摯に向き合い、
ポータブルトイレの改革に挑む。

そんな青山に任されたミッションが、樹脂製ポータブルトイレの開発だ。アロン化成にとってポータブルトイレは、1972年以来40数年の販売実績を誇る主力製品でもある。樹脂製ポータブルトイレの定番製品はFX-CPであり、シリーズ累計生産台数100万台を突破するベストセラー製品。開発を進めるにあたって、既存のFX-CPをベースに他社よりスペックで有利になる小規模改良品開発も選択肢として検討されていた。しかし、青山はその方針に対して、トイレ全体の構造を見直した新たなポータブルトイレの開発を提案する。そこには、ある理由があった。多くの利用者から評価を得ていたFX-CPであるが、一部の利用者から、「尿がこぼれてしまうことがある…」という声が寄せられていることを知っていたからだ。設計から見直すとなれば金型から作る必要があるなど、コストも、時間も費やしてしまう。当然、そこまでのリニューアルは不要だという声が社内では上がった。もちろん、青山自身も自問自答する。「トイレサイズの更なるコンパクト化や便座角度調節の機能追加などFX-CPの小規模な改良だけでも世の中に受け入れられる商品を開発できたと思います。でも、すでにさまざまな課題は把握している。悩んでいる人がいるのなら、それはしっかりと改善するべきだと考えました」と青山は言う。そうして、トイレの構造を徹底的に見直したポータブルトイレの開発をすることを心に決めた。『ジャスピタ』の開発が正式にスタートした瞬間でもある。

プロジェクトメンバーの“つぶやき”が
ターニングポイントに。

まず「尿がこぼれてしまう」という状態に対して、根本的な原因を探るために、青山率いる開発チームは現場を良く知るケアマネジャーや作業療法士、理学療法士に詳細にヒアリングするところから始める。その結果、尿こぼれを起こす要因は大きく3つあった。①便座に深く腰掛けられないこと、②トイレの中心が分からずに斜めに座ってしまうこと、そして③股を閉じたままにしてしまうことである。ただし、なぜそのような姿勢になるのか、根本的な原因は誰も分からない…。そんな時、あるプロジェクトメンバーのつぶやいた一言が事態を大きく動かすこととなる。

「普通のトイレでは失敗しづらいのに、ポータブルトイレだとどうして失敗してしまうのだろう?」

この思いがけない言葉に、青山ははっとする。それまで、無意識にポータブルトイレのことしか見ていなかったことに気づかされたのだ。そこで、開発チームと共にすぐさま便器を調査することになる。そこではじめて、便器の形状が明暗を分けることが判明した。洋式便器はアーチ状になっており、また、前面から底まで続くカーブのおかげで足が引っかからず、意識しなくても深く腰掛けられるのだ。便器の形状が尿こぼれを防ぐカギだったと知った青山たちは、細部にいたるまで使い勝手のよい便器の開発に着手していく。試作を何度も繰り返し、現場でも実際に被介護者に使用してもらいながら実験と改良を行った。そうしてたどり着いたのが、イルカの口のような形状の便器だった。座ると自然と足が開き、尿こぼれを防ぐことができる。その形状は『ドルフィンカット』と名付けられ、早速量産に向けた準備を進めた。

次々に直面する課題に
チーム一丸となって執念で答えを出す。

ところが、ここで再び壁が立ちはだかる。「設計担当に便器のデザイン案を見せると、形状が複雑で型をつくれないと言われました」と青山は当時を振り返る。さらに、営業部からは「室内に置くには大きすぎる」「値段も高くて売りづらい」など、厳しい意見が続いた。お客様のニーズをクリアすることを最優先にした結果、量産、販売における課題が山積みだったのだ。この製品を形にするのは無謀なのか。それでも青山には、歩みを止めるわけにはいかない理由があった。なぜなら、多くの被介護者が、排泄で今も辛い思いしていることを知っているからだ。青山はそうした人たちに、思うように体が動かず日常生活に苦労する祖父の姿を重ねていた。

そこから開発チームはさらに試行錯誤し、どうすれば実現できるかを考える日々。開発チームの熱意に打たれ、設計や営業部員もさまざまなアドバイスや代案をくれた。その結果、便器においては二つのパーツに分けて型をつくり、接合後にビス止めをして強度をつけるという、樹脂加工を得意とするアロン化成ならではの方法で理想の形状を実現させることができた。また、必要な機能はしっかりと備えながらも、なるべくシンプルな構造にすることでサイズや価格を抑えることに成功。量産、販売のためのいくつものハードルを、一つずつ丁寧に、執念でクリアしていったのだ。

ポータブルトイレの開発を支える、
変わることのない祖父への想い。

こうして、世に送り出した『ジャスピタ』は、大反響を呼ぶことになる。「よく尿こぼれしていた片麻痺患者の方が、『ジャスピタ』では失敗することなく用を足せるという喜びの声が届きました。おかげでトイレまで移動する負担が減ったと聞いて、私もとても嬉しかったです」と青山は笑顔で話す。さらに、その使い勝手の良さから自立心が喚起され、紙おむつを使用していた人も、自室ポータブルトイレで自主排泄ができるようになったという波及効果も報告された。これを受け、とある介護施設でも、「利用者のためになる真の自立支援とは何なのかを考えよう」と職員間の意識向上につながったという。

ポータブルトイレの常識を変えた『ジャスピタ』だが、決してこれがゴールではない。すでに現場からは更なる改良を求める声も届いている。青山は、「まだ構想レベルですが」と前置きをつけた上で、社会のニーズに応えながら、ポータブルトイレの新たな価値の創造を目指すと言う。「まだまだポータブルトイレにしかできないことがあるはず。さらに進化させ、ポータブルトイレの存在意義を変えていきたい」と青山は未来を見据える。そうして、より安全で、より利便性の高いものを追求する一方で、一つだけこれから先も変わらないものもある。それは、青山の開発業務には、いつも祖父に捧げる想いが真ん中にあるということだ。

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